9.平凡な日常




 

(お待たせしました、こちらチーズハンバーグですねー。)


(…でさー、うちの先公さぁ………)


(そりゃ分かってるけどさ、でも……)




ナオ:…ほい、ドリンクバー。メロンソーダでよかったか?

ゴウ:おう。悪いな。

ナオ:いや、別についでだし。

ゴウ:…にしても、お前は烏龍茶かよ。せっかくドリンクバーなのに。

ナオ:いいだろ、ジュースとかよりお茶系の方が好きなんだよ。

ゴウ:じいさんかよお前。まあ人の好みはそれぞれだけどさ。



(…なんか女子だけに優しくしてるって感じでさー。超キモくない?)


(…ほら、告白しなよ。もうすぐ卒業でしょ?)




ゴウ:…あっそうそう。この前な、山方と話してたんだけどさ…

ナオ:……山方って、誰だっけ?

ゴウ:あー、お前とは面識ないか。ほらあの、天パのヤツ、見たことない?

ナオ:あれ、天パの人とかいたっけ…?

ゴウ:まあ、いいやそれは。今度紹介するわ。おもしろいヤツだから。

ナオ:…なら頼むわ。



(…えー?アイツ普通に冷たくない?アタシには超冷遇ってカンジなんだけど?)


(確かにそうなんだけど、でも……)




ナオ:…で、何の話よ?

ゴウ:そうそう、その山方がさ…まず、実家から家に帰ってきたんだって。

ナオ:うん。

ゴウ:そしたら、鍵が開いてたんだって。

ナオ:…閉じ忘れじゃなくて?

ゴウ:まさかと思って家の中に入ったら、クローゼットとか空きっぱなしになってたらしいんだよ。で、「空き巣に入られた」って思ったらしいのよ。

ナオ:それは…すごいな。

ゴウ:…でも、単に出かけるときに鍵かけ忘れてただけだったらしくて!ビックリして損したとか言ってたわ。

ナオ:……じゃあ、クローゼットはなんだったわけ?

ゴウ:出かけるときに服がなくて、いろいろ探しててそのままだったらしい。バカだよな!?

ナオ:それはバカだなー。



(ウソー!?アタシにはすっごいベタベタしてくんだけど!)


(あんた、ゆっくんのこと好きなんでしょ?…ほら、第二ボタンくださいみたいなのでいーじゃん。)




ナオ:…でも、実際鍵かけずに出かけたわけだろ?よく無事だったな。

ゴウ:いや実際さ、空き巣とかそんなんいないだろ?

ナオ:でもわかんないだろ。もしものことがあるし。

ゴウ:…もしもって言うけどさ、実際そんな話聞かないじゃん?…誰か身近で入られた人いる?

ナオ:あー、確かに……いないわ。



(それって、アンタに気があるとかじゃない?)


(でも……その日、ボタンのある服かわかんないよ…)




ゴウ:だろ?……しかもさ、空き巣でこれなんだから、強盗とかもっと稀少だよな。

ナオ:まあな…お笑いのネタとかではよく見るけど、確かに実際には見たことないよな。



(えーマジ!?それさらにヤバイって!…理恵子先生キモッ!!)


(ならもう、ストレートに言っちゃえばいいじゃん…「教習所入ったときから、ずっと好きでした」って。)




ゴウ:だよな……強盗とか、まず遭遇することとかないよな。

ナオ:確かにそうだな…





<ドカン!>

(強盗だ!!お前ら全員動くな!!)




ナオ:…なんか、周りが騒がしくない?

ゴウ:そう?

ナオ:ほら、なんか空気が一変したというか……



(レジはどこだレジは!!…そこの店員、今すぐ金を用意しろ!!)




ゴウ:…なんか、料理に虫が入ってたとか、そんなんじゃない?

ナオ:……なんだ、そういうことかー。

ゴウ:もー、なんだと思ったんだよー!

ナオ:いや、ごめんごめん。



(…お前、早くしろ!金があるのは分かってんだよ!!)




ゴウ:……そう、だから逆にさ、1回ぐらい強盗に襲われてみたいとか思わない?

ナオ:…えー!そんな物騒な。

ゴウ:銃を向けられてさ、「下手な真似したら、撃つぞ!」とか…言われたくない?

ナオ:いや、それは怖いって!

ゴウ:いやいや、1回ぐらいはさー。



(お前、この拳銃が見えないのか!?下手な真似したら、撃つぞ!!)




ゴウ:そう、それにさ、実際に銃の発砲音とか聞いたことないよね。1回ぐらいはさー。

ナオ:って、さっきの流れだとお前、打たれることになるぞ?

ゴウ:発砲音が聞けたから……人生に悔いなし………

ナオ:悔いありまくりでしょ!まず、死んじゃダメだって!



(…あ?お前、この拳銃がニセモノだと思ってんのか?ナメんじゃねえぞ!!)

<パンパン!!>




ナオ:……今、すごい音しなかった?

ゴウ:そう?

ナオ:…なんか、いかにも銃の発砲音みたいな………



(分かったか?分かったらさっさと金を用意しろ!!)




ゴウ:…誰かがセットのパンを頼んだんだろ。

ナオ:……あ、そのパンだったのか、あれ。

ゴウ:そうだろー!ファミレスで聞こえるパンといったらふっくらフワフワのパンしかないだろー!

ナオ:…いや、それにしても、すごい勢いで頼んでたな。パンパンパンパン言ってたぞ。

ゴウ:そんだけパンが欲しいんだろ。故郷恋しい欧米人とかじゃない?

ナオ:そんなもんかー。



(…いくらって?ありったけ渡せばいいんだよありったけの金を!!)




ゴウ:そうそう、でさっきの話なんだけどさ。

ナオ:強盗に入られたいって話?

ゴウ:おう。実際、入られたら、入られたらよ?…その犯人を説得するような、正義の人になりたくない?

ナオ:そりゃあなりたいけど、実際無理だろー。

ゴウ:そこをがんばるんだよ。

ナオ:まず、強盗が入ること自体ないだろって。

ゴウ:…そこは無視しようぜ!気にしない方向で話を進めてるんだよ。

ナオ:そうか、ごめんごめん。



(…あ?お前、今、警察に通報しようとしただろ!?…ふざけた真似すんなって言っただろゴラア!!)

<パンパン!!>




ナオ:またパンの注文か。

ゴウ:…まあな、実際、正義みたいなことやりたいけど…難しいよなあ!

ナオ:自分の命もあるしな。強盗が入っても、そんな人はいないだろー。

ゴウ:かなあ。



(やめるんだ犯人!強盗なんてはしたないぞ!!)


(な、なんだお前は!?)




ナオ:…おお、なんか、周りの様子が変わってない?

ゴウ:そうか?

ナオ:ほら、正義みたいな!凛々とした空気になってない?

ゴウ:…誰かがミントガムでも食ったんだろ。

ナオ:……なんだ、そんなもんかー。



(さあ、早く自首しないか?)


(お前…撃つぞ!撃ってやるぞ!!)


(僕は防弾チョッキを着ているものでね…撃たれても何の心配もないんだが?)


(畜生……こうなったら………)




ゴウ:…そうだな、正義のために立ち上がって、強盗をなぎ倒すような人間がいて欲しいけどなあ。

ナオ:でも実際、無理だよな。まあ立ち上がったとしても、強盗をなぎ倒すって、無理だろ実際。

ゴウ:それって、向かっていって逆にやられるパターン?

ナオ:なんか、そんな感じじゃない?



(さあ、おとなしく降参を……)


<ドキューン!!!>


(ぐはっ!)




ナオ:…なんか、空気をも震わすような変化が起こらなかったか?

ゴウ:誰かが一目惚れして、ハート撃ち抜かれたんだろ。

ナオ:そんなもんかー。…すごいなもう、運命の人に出会った以上の衝撃だったな、今のは。



(な、なんだ今のは………)


(…ハハハ!熱光線の威力を思い知ったか!!)




ゴウ:まあな、いろいろ言ってきたけど、全部妄想上の賜物だしな。

ナオ:…もうちょっとハッピーな妄想すりゃいいのに。

ゴウ:いいじゃん?どうせ起きないことだし。

ナオ:まあ、俺も宇宙人が侵略してきたら…とか、たまに思うもん。

ゴウ:なんだそれ、強盗よりおっかねえじゃん!!

ナオ:まあ、強盗以上にありえないけどな。



(ね、熱光線……?そんなもの、どうやって………)


(そんなこと容易いことだ………実は私は、地球を侵略しにきた宇宙人なのだ!!)




ゴウ:……確かに、ありえないな!

ナオ:そりゃそうだ!

二人:アハハハハハハ!!



(…もう気分を害した!この星を滅茶苦茶にしてやるわあ!!ガハハハハ!!)




ゴウ:…なあ、ナオ?

ナオ:なんだよ。

ゴウ:……なんか、幸せだよな。

ナオ:…なに、突然?

ゴウ:いや…こういうのって、いいなと思って。

ナオ:こういうって…どういうことよ。

ゴウ:何事もなく、つつがなく、こうやってただだべっていられる……平凡な日常なんだけど、なんか幸せだよな。

ナオ:うん……確かに、な。



(ガハハハハ!地球の存在ごと、消し去ってやるわあ!!)

<ドキューン!!!>




(ゴゴゴゴゴ……)

ナオ:…なんか、すごく地面が揺れている気がする。

ゴウ:……そう?

ナオ:うん。地震より、もっとすごい何か………

ゴウ:…すっごい目眩がしてるんじゃない?

ナオ:……そんなもんかー。だからフラフラ感じるのかな。

ゴウ:まあ、俺もすっごい目眩がしてるんだけどな。

ナオ:…お前もかー。



(…この一撃で最後だ!!地球よ、跡形もなく消え去るのだ!!)

<チュドーーーン!!!>



<チュドーーーン!!!>



<チュドーーーン!!!>



<チュドーーーン!!!>












ナオ:(…なんか、すごい浮遊感を感じるんだけど。)



ゴウ:(……やっぱ、ひどい目眩なんじゃないかなあ。)



ナオ:(…そんなもんかー。病院行かなきゃなあ……)




ゴウ:(……でも、ここはどこかわからないなあ……)





ナオ:(…それに、目の前が真っ暗だ。)






ゴウ:(それは………これが、最期じゃないかなあ。)







ナオ:(…そんなもんかー。確かに、呼吸ができないや。)








ゴウ:(……じゃあ、さよならだな。)














でも、



こんなふうに、



平凡に死ぬことができて、








幸せな人生だったなあ。



 










<あとがき>






 



 

 
   
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