6.デビュー計画




ナオ:……すみません、お待たせして。

ゴウ:いやいや。こちらこそ、喫茶店なんかに呼び出して悪かったね。

ナオ:いえ、そんなことは……

ゴウ:それで、今日来てもらったのは、この前受けてもらった歌のオーディションのことなんだ。

ナオ:は、はい。

ゴウ:端的に言うとね………非常によかった。

ナオ:……本当ですか?

ゴウ:ああ、特にサビでの高音の伸び、あれは素晴らしいね。

ナオ:あ、ありがとうございます……

ゴウ:それで、折り入って話があるんだけども……

ナオ:……はい。

ゴウ:我が社で、歌手として歌う気はないかい?

ナオ:…そ、それってつまり………

ゴウ:ああ、今すぐにでもCDデビューしてもらいたい。

ナオ:本当ですか!?

ゴウ:その気はあるかい?

ナオ:もちろんです!今までデビューを夢見て、ここまで歌ってきたんですから!

ゴウ:そうかそうか、それはこちらとしてもうれしい限りだ。

ナオ:はい!

ゴウ:ではキミにはこれから、女性シンガーとしてがんばってもらいたい。

ナオ:………はい?女性?

ゴウ:そうだ。

ナオ:…どういうことですかそれ!?

ゴウ:どういうことって、我が社の方針として、キミを女性シンガーとして売り出していくということだ。

ナオ:…なんですかそれ!まず僕は男ですから!バレますって!

ゴウ:大丈夫だ、キミの歌声を聴くかぎり、女声としか思えない。

ナオ:若干傷つきますそれ。男として。

ゴウ:それほど、キミの歌声は素晴らしいということだ。

ナオ:…そうなのかなあ。

ゴウ:もっと自分の声に自信を持ってくれていいんだ。この私が認めているのだから安心してくれてかまわない。

ナオ:で、でも………

ゴウ:大丈夫、キミにはアイドルシンガー「朱星りりる」として活躍するだけの素質が……

ナオ:ちょっと待って!…えっ、なんですかそのりりるって。

ゴウ:何って、キミの歌手としての名前だよ。

ナオ:なんなんですかその名前!ちょっと痛いですよ、りりるって!

ゴウ:キミの声を聞いたとき、ふっと浮かんだんだよ……

ナオ:なんで浮かんじゃったんですか!そんな声してるの僕!?

ゴウ:大丈夫、字画的にはすごくいい名前だそうだ。

ナオ:知りませんよそんなの!あの……しかもアイドルシンガーってことは、そういう感じの歌を歌わなきゃいけないんですか?

ゴウ:まあそういうことだな。

ナオ:嫌ですよ!僕は本格派の歌手として、自分の思いを伝えたいと思って歌手と志していたんですよ!

ゴウ:いいじゃないか、キャピキャピした曲でも。若さとかは伝わるぞ。

ナオ:そんなの伝えなくていいですよ!

ゴウ:何を言うか、キミは大胆エッチなアイドルシンガー「朱星りりる」として活躍できる……

ナオ:…ちょっと待ってちょっと待って!何か余計なのつきましたよねさらに!

ゴウ:いいだろう、「何を言うか」ぐらい言っても。

ナオ:そこじゃない!……なんですか「大胆エッチな」って!

ゴウ:そういうコンセプトのアイドルなんだよ。

ナオ:どんなコンセプトだよそれ!!

ゴウ:だから、隠語を連発するようなキワドイ歌を歌うアイドルとして……

ナオ:そんなアイドル嫌だわ!まずですよ、なんで男にやらせるんですかそんなの!!

ゴウ:いやいや女性に言わせたら悪いだろう、そんなエロティックな歌詞なんて。

ナオ:男でも嫌ですよ!!なんでそんなエロエロな歌詞を歌わなきゃですか!

ゴウ:大丈夫だ……キミは魂を届けたい、という強い気持ちがある。

ナオ:…この歌で何を届ければいいんですか!?

ゴウ:曲を聴いている男どもの股間に、エネルギーをだな………

ナオ:嫌だわ!なんで男どもを興奮させなきゃいけないんだよ!しかも男の僕が!

ゴウ:そういうニーズもだな……

ナオ:ねえよ!まずこっちが受付けねえよ!

ゴウ:…しかし困ったなあ、これでは、大胆エッチに歌って踊れるアイドルシンガー「朱星りりる」という計画が………

ナオ:…「歌って踊れる」!?

ゴウ:ああ、アイドルなんだから、踊りぐらいしないと………

ナオ:いや…まず人前で歌うってことですか!?僕が!?

ゴウ:ああ。

ナオ:姿を晒したらバレますよ確実に!ダメでしょそれ!?

ゴウ:そこで、あえて危ない橋をだな……

ナオ:渡らないでくださいよ!そんなチャレンジャー精神いりませんから!

ゴウ:大丈夫、大丈夫だ…キミなら、女装したらなんとかなる。

ナオ:またちょっと傷付きました。男として。……それになんとかなっても、女装したカッコで人前に出たくないです!

ゴウ:いや、でもな、肌露出の多い、エロエロコスチュームだぞ。

ナオ:余計無理だわ!大胆エッチの部分でだいたい読めましたけど!

ゴウ:そういうニーズもだな………

ナオ:なんなんだよそのニーズはよ!

ゴウ:…まあ最終的には服は脱いでしまうんだが………

ナオ:……ん、なんて?

ゴウ:だから君は、脱いだらすごいよ大胆エッチに歌って踊れるアイドルシンガー……

ナオ:「脱いだらすごいよ」ってなんだ!なんだそれ、どんなアイドルだよ!

ゴウ:そりゃあ、歌いながら少しずつ服を脱いでいくというパフォーマンスをだな……

ナオ:ストリップショーかよもう!!危なすぎる上に、僕は男ですから!

ゴウ:確かに、脱いだらすごいな………下半身とかな……

ナオ:ホントですよ、この野郎め!そんなこと言われても、脱ぎませんからね!

ゴウ:いや、心配しなくても大丈夫だ。その衣装は、少しずつ服の繊維がなくなっていくようになっているからな。

ナオ:なんなんだよその服!服としての役割果たしてないし!

ゴウ:友人に作ってもらったんだが。

ナオ:才能の無駄遣いだよ……なんですかこのアイドル…

ゴウ:この部分でいろいろ言われてもなあ………空飛ぶアイドルとしての活躍もあるのに……

ナオ:…うん、空飛ぶ?…空飛ぶって!?

ゴウ:だから君は、宙に浮かんで空を飛ぶ、脱いだらすごいよ大胆……

ナオ:「宙に浮かんで空を飛ぶ」って何だよ!もう増えすぎて意味わかんないしだな!

ゴウ:どうだ、なかなか斬新だろう!

ナオ:斬新の前の問題だわ!いろいろとぶっ飛んだな急に!

ゴウ:空飛ぶアイドルだけに、ぶっ飛んだ、と………

ナオ:うるさいよ!まずなんで空を飛ばなきゃいけないんだよ!

ゴウ:あのな………下から見上げるというのが、チラリズムにおいては重要でな……

ナオ:そういう目的かっ!!

ゴウ:まあ衣装的にはチラというよりは、モロ見える感じになるがな……

ナオ:下着ないのかよ!モロ見えはヤバいだろ!!…まず男!僕、男!!

ゴウ:だがな、そういう……

ナオ:ニーズはないって!!…それからそうだよ、空飛ぶってどうするんだよ……ワイヤーで吊り上げたり?

ゴウ:あ、そこはもう……がんばって。

ナオ:そこノープランかよ!!人間、いくらがんばっても空は飛べないんだわ!

ゴウ:そこはなんとかなるとしてだな……

ナオ:ならないんだって!

ゴウ:いやいや、君はあと、台風を呼ばなきゃいけないんだよ、そんなところでくじけちゃ………

ナオ:いや台風って!…台風って!!

ゴウ:言わなかったか?君には、宙に浮かんで空を飛び、台風を呼び雨風吹かせる、脱いだらすごいよ……

ナオ:もう長すぎて意味わかんねえわ!……いやそれよりだ!「台風を呼び雨を降らせる」ってもう、何なんだよ!

ゴウ:文字通り、台風を呼ぶだけだぞ。

ナオ:だけ、じゃねえよ!人間にそんな力ねえよ!

ゴウ:そう……話題の渦中どころか、台風の渦中にまでいるアイドルというな……

ナオ:なんだその発想!……いいや、台風呼ぶのを百歩譲ったとしてもさ!台風呼んでどうするんだよ!

ゴウ:そりゃあ、雨風で衣装は濡れ、スカートがはだけてな……

ナオ:やっぱそういう方向性かよ!もういいよもう!

ゴウ:そして会場を豪雨で襲い……建物を倒壊させるんだ。

ナオ:いや、台風ひどすぎるわ!会場壊してどうすんだよ!

ゴウ:それでも人々は叫ぶ…「…恵みの雨だ!恵みの雨だ!」

ナオ:干ばつに悩む農民か!

ゴウ:そしてさらに、人々は口々に言い放つ!「…神だ!我々に雨をもたらした、大いなる存在……」

ナオ:…どこの宗教団体だよこれ!

ゴウ:そう、そうして朱星りりるは神として崇められることになる……というわけだ。

ナオ:……なんだこれ!というわけだ、じゃねえよ!ライブじゃないし、まず歌、歌ってないし!!

ゴウ:でもな……正直、売れると思うんだ。

ナオ:無理でしょ!まずなんなんですかこの設定の多さ!

ゴウ:大丈夫、大丈夫だ!この私が目をつけた逸材だぞ!

ナオ:だから無理ですって!まず、男がやるんですよ!

ゴウ:…いいか。私が目をつけ、売り出したアーティストはすべてヒットしている………キミも間違いなく、成功する!

ナオ:ホントですか、それ………

ゴウ:そう、「宙に浮かんで空を飛び、台風を呼び雨風吹かせる、脱いだらすごいよ大胆エッチで歌って踊れるアイドルシンガー『朱星りりる』」。
    ………これで売り出したら、物珍しさにバラエティには出られるだろ。

ナオ:やっぱそういう方向性かよ!!


 











<劇中劇>






 




 

   
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