3.或る路線バスにて




(プシュー)

ナオ:このバスはー、宇美営業所発、天神三丁目行きです。ご乗車の方どうぞ。

ゴウ:(乗る)

ナオ:このバスはー宇美営業所発、

ゴウ:(整理券を取る)

ナオ:天神三丁目行きです。

ゴウ:(座席に座る)

ナオ:扉閉まります、ご注意ください。

(プシュー)

ナオ:発車します、動きますのでご注意ください。

ゴウ:(座っている)

ナオ:……次は、宇美町役場入口、次は、宇美町役場入口です。

ゴウ:(ボタンを押す)

(ピンポーン)

ナオ:…次停車します。







ナオ:…ご乗車ありがとうございましたー宇美町役場入口です。

(プシュー)

ゴウ:(お金を払って降りる)

ナオ:ありがとうございましたー。…発車します。次は、宇美八幡前です。







(プシュー)

ナオ:宇美八幡前です。ご乗車の方どうぞ。

ゴウ:(乗る)

ナオ:………?…このバスは、天神三丁目行きです。

ゴウ:(整理券を取る)

ナオ:…発車します、動きますのでご注意ください。

ゴウ:(座っている)

ナオ:……次は、下宇美、次は、下宇美です。

ゴウ:(ボタンを押す)

(ピンポーン)

ナオ:…次停車します。







ナオ:…ご乗車ありがとうございましたー下宇美です。

ゴウ:(お金を払う)

ナオ:……ん!?

ゴウ:(降りる)

ナオ:…………ありがとうございました。…発車します。次は、大名坂です。







ナオ:大名坂、大名坂です。ご乗車の方どうぞ。

ゴウ:(乗る)

ナオ:!!?

ゴウ:(整理券を取る)

ナオ:………いや、え?…え?

ゴウ:(席に着く)

ナオ:………………え、えー、発車します。…動きますのでご注意ください。

ゴウ:(座っている)

ナオ:……次は、新原、次は、新原です。

ゴウ:(ボタンを押す)

(ピンポーン)

ナオ:…次停車します。







ナオ:…ご乗車ありがとうございました。新原です。

ゴウ:(お金を払う)

ナオ:…うんちょっと待って待って君!

ゴウ:……(後ろを振り向く)

ナオ:君だよ!てか君以外に乗客いないよ!

ゴウ:…僕ですか?どうしたんですか?

ナオ:いや、君さ……さっきから何してんの?

ゴウ:何って……どういうことですか?

ナオ:どういうことですかじゃないよ!…君さ、このバス乗ったり降りたりしてるよねさっきから。

ゴウ:そうですね。

ナオ:今日このバス降りるの何回目?

ゴウ:3回目ですね。

ナオ:う、ん…………えーと、いろいろ聞きたいことあるけど………。

ゴウ:はい?

ナオ:………まず、なんで?

ゴウ:なんでって……目的地に着いたから降りるじゃないですか。

ナオ:うん、そうだな。…で、また乗ってきたけど。なんでよ?

ゴウ:よく見たら違ったんですよ、バス停。

ナオ:…それなら気付けよ!しかもさ、1回ならまだしも、君、2回目乗ってきたよね!こんなすごい間違えを2回もしたって言うのかよ!

ゴウ:ええ、おっちょこちょいなんですよ僕。

ナオ:おっちょこちょいの度が過ぎるわ!

ゴウ:まあまあ、そんな人間もいますって。

ナオ:…まあ、仮にバス停を間違えたとする。なんでこのバスにわざわざもう1回乗るのよ!

ゴウ:いや、間違えたから正しい目的地に行かないと。

ナオ:このバスじゃなくてもいいだろって言ってんの!次のバス待てよ!

ゴウ:早く目的地に着きたい、という思いが強くてですね。

ナオ:いや、なら目的地間違うなよって言いたいんだが…………それにしても、なあ………。

ゴウ:なんですか?

ナオ:うん………ってかまず、バス停とバス停の間、どうしてんの?

ゴウ:全速力で走ってます。

ナオ:すごいな!バスと同じスピードか!しかも2回走って、息切らしてないしなお前!

ゴウ:走るのには自信あるんですよ。

ナオ:市民マラソンでも走っとけよ、もう!

ゴウ:……それより、とりあえずバスから降ろしてくださいよ。

ナオ:いや、いろいろまだ聞きたいんだけど………ほんとに、ここが目的地で正しいのな?

ゴウ:はい、さすがに3回も間違えませんよ。

ナオ:…ほんとな?……なら、どうぞ。

ゴウ:(降りる)

ナオ:はあ………発車します。次は、アザレアホール前です。







ナオ:伊崎、伊崎です。ご乗車の方どうぞ。

ゴウ:(乗る)

ナオ:はい待って待って君!

ゴウ:(整理券を取る)

ナオ:何事もなかったかのようにスルーしない!さっきの君でしょ!

ゴウ:……僕ですか?

ナオ:そうだよ、君だよ!なんでまた乗ってきたんだよ!

ゴウ:やっぱり、バス停間違ってました。

ナオ:お前、さっき間違えないって言ってただろ!

ゴウ:なんですけども…目的地が移動しまして。

ナオ:なんだそれ!その動く目的地ってなんだよ!

ゴウ:自宅です。

ナオ:ありえねえだろ!移動する家って!

ゴウ:ひょんなことから動いちゃうんですよ。

ナオ:いやだろそんな気まぐれで動く家とか!

ゴウ:仕方ないじゃないですか、そういう家なんですから。

ナオ:どういう家だよそれ…

ゴウ…それより、早く出発してくださいよ。次で降りますから。

ナオ:…やっぱ次で降りるのか!もういいよ……発車します。動きますので……







ナオ:…上須恵口、上須恵口です。ご乗車ありがとうございました…

ゴウ:(お金を払って降りる)

ナオ:ありがとうございました。…もう乗ってくるなよ!







ナオ:…………一番田、一番田です。

ゴウ:ふう………(乗る)

ナオ:おい待て待て待てコラ!

ゴウ:(整理券を取る)

ナオ:だから無視するなオイ!お前だよ!「いい汗かいたわ…」みたいな感じで乗ってきたお前だよ!

ゴウ:………僕ですか!?

ナオ:そうに決まってんだろ!…なんでまた乗ってきたよ。

ゴウ:やっぱり、バス停間違ってました。

ナオ:嘘だろ!さすがに嘘だろ!なんだ、また家が移動したってのか!

ゴウ:あの、自宅かと思ってたの、前を走ってる車でした。

ナオ:どんな間違え方だよ!どこのだれが軽自動車を自宅と見間違えんだよ!

ゴウ:僕ですが。

ナオ:言うと思ったわ!…さすがにな、3回も同じことをくり返したら、不自然なんだわ。

ゴウ:いや、ほら…二度あることは三度あるって言うじゃないですか。自然の摂理ですよ。

ナオ:しかしお前な…前のバス停でバス降りた後、すぐに準備体操始めてただろ!

ゴウ:走るのには必要じゃないですか。

ナオ:走るの前提の行為じゃねえか!バスが発車した途端に、見事なクラウチングスタート決めやがってよ!

ゴウ:スタートダッシュが肝心なんですよ。

ナオ:知らんわ!

ゴウ:我ながら、いいスタートでした。

ナオ:……はあ。もうお前…どう考えても意図的な行為だろ?

ゴウ:…はい。

ナオ:…素直に認めたな。……それで、もう一度聞くわ。なんでこんなことしてんの?

ゴウ:いや、あの、トレーニングの一環としてですね。

ナオ:なら普通に道走ればいいだろうがって!それも嘘だろ……な。

ゴウ:…はい。

ナオ:…そんなに素直なら、本当のことを言ってくれないか?

ゴウ:………………。

ナオ:…別に、ちゃんとした理由があるならいいんだぞ。あるならな。

ゴウ:……………整理券……

ナオ:……はい?

ゴウ:………整理券が、欲しくて……

ナオ:…それだけ?

ゴウ:はい。

ナオ:…なに、整理券もらうために毎回走ったりしてたんか!

ゴウ:そうですよ!

ナオ:いや、明らかにハイリスクローリターンだろうよ!整理券集めて、どうすんのよ。

ゴウ:整理券でトランプしたいんです!

ナオ:そんな目的かよ!そりゃあ数字書いてあるけど!

ゴウ:あわよくばUNOもしたいんです!

ナオ:色もいろいろあったりするけど!間違ってもDとかRとかの整理券は出てこないしだな!

ゴウ:ほら……あと、カードバトルとか!子ども達に大人気!

ナオ:……なんで遊ぶ用途しかねえんだよ、さっきから!しかもなんだ、ムシキング的なノリかよ!

ゴウ:赤の「6」はレアカードとかね。

ナオ:ねえよ整理券にレアとか!………いや、ね、そういう用途なら迷惑だからやめてもらいたいんだけど。

ゴウ:えっ!…いや、えっと、もっとすごい用途があるんです!絶対に必要なんですよ!

ナオ:ほお、言ってみい。

ゴウ:エネルギーなんです!

ナオ:…燃やして何かするのか。

ゴウ:いや、その、僕のエネルギーというか。

ナオ:………どういうことだよ。

ゴウ:そう!僕、整理券のエネルギーで動いてるんですよ!

ナオ:……何者だよお前!ロボットかよ!ロボットにしても、エネルギー源考えろって話だよ!

ゴウ:もうね、もっと言うと、僕、整理券から出来てるんですよ!

ナオ:お前紙製か!紙製ロボか!意味わからんわ!

ゴウ:そうそう!整理券ロボなんです。カシャッ!カシャッ!

ナオ:いや、整理券取るときの音とかそんなん再現しなくていいから!…不自然すぎだろうよ理由として!

ゴウ:えー、だって無理を通せば道理が引っ込むかと思って……

ナオ:ほら、無理って認めてるよ!せめてもう少し一貫性、持ちなさいよ……。

ゴウ:………と、言うわけで納得してもらったので、出発してもらっていいですかね?

ナオ:いや、何一つ納得してねえよ!…後ろの車が詰まってるから発車しますけど!……………えー、次は…







ナオ:…萓野、萓野です……ご乗車ありがとうございました。

ゴウ:(お金を払って降りる)

ナオ:ありがとうございました………………こいつ、金はちゃんと払うのな。







ナオ:………城山団地です。

ゴウ:はふ………(乗る)

ナオ:やはり来たかお前!もう整理券はやらんぞ。

ゴウ:…ナニを言ってるんですか?

ナオ:……ここまできて、しらばっくれるか。お前、さっきから乗ってきてるだろって!

ゴウ:イイエ違います!ワタシは整理券ロボです!

ナオ:うわ、無理の方を通してきた!

ゴウ:整理券ロボの「整理券くん」デス。

ナオ:しかも名前そんままやん。……お前、演技しても無駄だぞ。

ゴウ:演技とはシツレイな。

ナオ:いや…なんか片言風にしてるけど、バレバレだって。

ゴウ:……この額に貼ってある整理券を見ても、そういうことを言うカ?

ナオ:うん、気になってはいたけどね、何だよそれ!しかもガムテープでベターッ貼ってるしだな!

ゴウ:額に整理券がある……どう考えても、ロボットじゃないデスか!

ナオ:お前、ロボットを何だと思ってんだよ!どちらかと言うと、キョンシーにしか見えないんだわ!

ゴウ:どこがデスか!キョンシーってアナタ、額にお札を貼られているやつデスよ!

ナオ:どう考えてもお前寄りだろ!!お札が整理券にグレードダウンしてるぐらいだよ!

ゴウ:…ワタシを怒らせましたね。

ナオ:どちらかと言うと、怒るのはこっちの方だけど。

ゴウ:よし……整理券ロボ、第2形態!!(ベタッ!)

ナオ:なんだよ形態って!…しかも整理券をもう1枚貼っただけじゃねえか!どう違うんだよ!

ゴウ:第2形態は、ちょっと饒舌になります。

ナオ:なにその微妙な変化!もともと割と饒舌だしなお前!

ゴウ:しかも驚くのはまだ早い!整理券ロボは、第7形態まであるのです!

ナオ:驚くというかあきれるけども…第7形態って何なのよ。

ゴウ:整理券を7枚貼ると第7形態となり、応募するともれなく整理券ロボがもらえるのだ!

ナオ:どこのパン祭りだよお前!しかもまた整理券ロボっていらねえ!

ゴウ:…そう、しかし整理券ロボには、エネルギーに整理券が必要なのです……………そういうことで、納得していただけましたか。

ナオ:できるわけねえだろ!まずお前の存在から納得してねえよ!

ゴウ:というわけで、降りるんで扉開けてもらっていいですかね。

ナオ:…いや、お前乗ってから出発すらしてねえだろ!

ゴウ:整理券もらえればそれでいいんです!!

ナオ:うわお、言い切った!じゃあ降りればいいじゃないすかもう………。

ゴウ:まいどー。(お金を払う)

ナオ:いや、「まいどー」ってこっちの台詞だわ。走らなくても金払うってお前……

ゴウ:(降りる)

ナオ:ありがとうございました。



    仕方ない………よし!







ナオ:赤坂、赤坂です。

ゴウ:はぁ……はぁ………(乗る)

ナオ:チッ。

ゴウ:いや…急に飛ばすとか……反則ですやん………(カシャッ)

ナオ:しぶといな、お前……

ゴウ:気が付いたら…出発してるとか………(カシャッ)

ナオ:さすがに息切らすんだ。

ゴウ:しかもあの………道端で小学生に…絡まれて………(カシャッ)

ナオ:そりゃあ…顔に整理券貼り付けた人がおったら、そうなるわ。どこの民族ですかって感じだし。

ゴウ:……あ、そうだ。どうも、整理券ロボです。(カシャッ)

ナオ:そこまだ通すんだ。

ゴウ:………ああ……疲れたわあ…(ゴクゴク)

ナオ:…いや、お前ポカリ飲んでるやん!整理券がエネルギーじゃなかったのかよ!

ゴウ:え、いや…………ほら知らないですか?ポカリスエットって、整理券から出来てるんですよ。

ナオ:なわけねえだろ!ウソ甚だしいわ!

ゴウ:よくCMで言ってるでしょ。「整理券100%使用!」

ナオ:どんなキャッチコピーだよ!しかも100%て、整理券のどっから水分出るんだよ!

ゴウ:なんだ、知らないのか……(カシャッ)

ナオ:…で、ちょいちょい整理券取ってんじゃねえよ!お前、今まで1乗り1整理券だったのに!

ゴウ:こうした方が効率いいと気付きまして。

ナオ:うん、確かにそうだな!

ゴウ:さっき走りながら、「あれ、1度に何枚も取ればよくね?」って、気が付いたんです。

ナオ:まあ気付くの遅いな!

ゴウ:もうね…1回乗って整理券1枚しか取らないて、アホだね!

ナオ:うわ、さっきまでの自分の行動、全否定した!!

ゴウ:愚の骨頂だわ!頭おかしいんじゃないのもう……(カシャッカシャッ)

ナオ:そこまで言うか!…いや、まず整理券集めるということで十分おかしいからね!世間一般的に!

ゴウ:どういうことですか(ガシッ!ガシャガシャ!)

ナオ:…いや、今度は何してんだよお前。

ゴウ:何って、この整理券出す機械、もらえないかなと。

ナオ:もらえるわけねえだろ!なに機械“ごと”取ろうとしてんだよ!

ゴウ:いいじゃないですか。これからは一家に一台の時代ですよ。

ナオ:いや、明らかにいらねえだろ一家に一台とか!

ゴウ:そうして家でも整理券出して出して……出しまくって………ふふ…

ナオ:…何が楽しいんだよそれ!

ゴウ:そして贅沢にも、整理券でガム包んだり…………贅沢ー!

ナオ:なんだその使い方!ちょっと贅沢かもしれんけど!

ゴウ:それからー、玄関が暗くて見えないとき、整理券に火を灯したりして!!きゃーセレブ!

ナオ:大正時代の成金かよ!!紙幣と整理券じゃ、グレード全然違うしな!

ゴウ:整理券セレブ!

ナオ:全然ゴージャスな語感じゃないなそれ。

ゴウ:……というわけで、頂きます。(ガシャ!ガシャ!)

ナオ:だから持っていこうとするなっての!やれるわけねえだろ、どう考えても!

ゴウ:くそ……………こうなったら……!

ナオ:こうなったらなんだよ………

ゴウ:……バスジャックしてやるわ!!

ナオ:…………バスジャック!?まさか、お前………

ゴウ:(カシャッ)手を挙げろ!!さもないとどうなるか解ってんのか!!

ナオ:…いや、整理券の束を突きつけられても!!なんも怖くないわ!

ゴウ:さもないと、整理券から波動砲が飛び出して、お前の額を打ち抜くぞ!!

ナオ:整理券にそんな七色な力ねえよ!!

ゴウ:早くありったけの!ありったけの整理券を用意しろ!!

ナオ:で、やっぱ要求それかよ!バスジャックまでして、要求が整理券て!

ゴウ:そう、3億円相当の整理券だ!

ナオ:3億円相当の整理券て、どんなんだよ!

ゴウ:それから、逃走用の整理券も用意しろ!

ナオ:もう意味わかんねえわ!なら整理券で逃げてみろや!!

ゴウ:くそ………お前、こっちには人質もいるんだぞ!!人質の命ねえぞ!(ガシャッ)

ナオ:ってそれ、整理券出す機械!!もともと命ないわ!

ゴウ:整理券出す機械が………粉々だぞ…!

ナオ:…お前、整理券欲しいのか壊したいのかどっちだよ!

ゴウ:ついでにバスも粉々だ!

ナオ:いや、そっちの方が重大だわ!………お前、こんなことするんだったら、警察呼ぶぞ。

ゴウ:…け、警察だって!?…………お前、早く逃走用の扉を開け!

ナオ:降りる気か!あきらめ早いな!警察の力、偉大だな……。

ゴウ:さあ早く!

ナオ:もう、降りてくれるなら降りて欲しいから開けるけども…。

(ガシャッ)

ナオ:はい、とっとと降りた降りた!

ゴウ:ふう………………あっ!

ナオ:…なんだよお前。降りるなら早く降りろよ……

ゴウ:整理券何枚取ったっけ!?金払わないと………

ナオ:…そこ愚直なのかよ!!


 











<act.4>






 




 

 
inserted by FC2 system