第二科学部

コント/ツーバイフォー



増田:あの……ちょっといいですかね?
長束:はい、なんでしょうか。
増田:いえ、私もですね。なにぶん家を買うのは初めて専門的なことは分からないんですが、ツーバイフォーってこれでいいんですよね?
長束:ええ、そうですよ。
増田:でも、ツーバイフォーってたしか建て方じゃなかったですか?
長束:いえ、こちらの二人一組のペアが四組集まって暮らす住まいのことをツーバイフォーと呼ぶのですよ。
増田:つまり、この家にすむとしたら三組の夫婦だかカップルだかと同居するってことですよね。
長束:で、どうですか。こちらの物件に決めますか?
増田:いやいやいや……。もう一度確認しますよ。結婚するんで、二人だけの新生活を送れるように一軒家を持とうと相談したんですよね。
長束:ええ。
増田:要望完全無視じゃないですか! これただのシェアハウスですよね。
長束:じゃあ、同居される三組の方々をご紹介しますね。
増田:糾弾すら無視ですか。
長束:まず、結婚三十五年の熟年夫婦、脇坂夫妻。
   すでにお子様が独立されており、ご主人が定年退職されたのをきっかけにまたにぎやかな家庭が恋しくなってこちらのツーバイフォー住宅にお住まいになられました。
増田:ラブラドールレトリーバでも飼えばよかったのに。
長束:酸いも甘いも噛み分けたお二人ですから、なにか相談があればきっといいアドバイスをしてもらえますよ!
増田:いいですよ、別にそんなことしてもらわなくても。
長束:でも考えてもみてくださいよ。ただの家ならどこでも買えますが、三十五年をともに歩んだ夫婦の体験談は求めてもなかなか手に入りませんからね。
増田:そうかもしれませんけれど、なんで見ず知らずの人に夫婦の相談をしなきゃいけないんですか。
長束:どうです? 二階建の2LDKだけでなく、Fまでつくんですよ。すごくお得じゃないですか。
増田:まず、家を購入するに際して階数表示以外にFって概念がないですから。形式上確認しますけれど、それは夫婦のFですか?
長束:チッチッチ(指を振る)「Family」の「F」ですよ。
増田:うわあウザい!
長束:ツーバイフォーに住まわれるのはご夫婦だけとは限りませんからね。実際、ここにも親子で住まわれている方もいますし。
増田:はあ。そうなんですか。
長束:ええ、お母さんの智子さんと娘の宏子ちゃんの堀江さん親子です。
   ご主人が仕事仕事で家庭を顧みず、挙句、新人の女の子と浮気したことに愛想を尽かして家を出られたそうです。
増田:また、重い事情背負ってますね。
長束:智子さんも智子さんで酸いも甘いも噛み分けてきてますからね。脇坂さん御夫妻とはまた違ったアドバイスが聴けると思うので、希望にあふれた新婚生活を始められる増田さんにはピッタリの物件かと。
増田:十中八九、溢れる希望を枯渇さるタイプのアドバイスですよね。
長束:どうです?
増田:どうですじゃなくて。それにその堀江さんにしたって、自分の夫婦関係ギクシャクしているところに新婚夫婦が転がり込んできたら気まずいでしょ。
長束:いやあ、気になされないとは思いますよ。とにかく夫の愚痴をこぼせる相手が欲しいみたいですし。
増田:そうなんですか。
長束:ええ、毎晩脇坂さんのご主人を相手にクダ巻いてますから。そして、それを聴いた脇坂さんはただ一言「ガッツだ!」と。
増田:さては旦那さんアドバイス下手だな。精神論って!
長束:で、それからツーバイフォーの最後の一組。張り込みをされている刑事のお二人で……
増田:ちょっと待って、ちょっと待って! 刑事!?
長束:ええ。こちらの物件はご家族以外の利用も可能ですから。
   なんでも、向かいのアパートの一室が暴力団のアジトになっているらしくて、この家で張り込みをされているんですよ。
増田:そうなってくると、ツーバイフォー以前に治安の問題で嫌なんですけれど!
長束:でも、刑事さんがすぐそばにいますから。もしものときは大丈夫ですよ。
増田:もしもを想定している時点で嫌なんですよ!
長束:で、張り込みをされている刑事のあっくんとまこちんのお二人です。
増田:なんですかその名前!
長束:刑事さんだからあだ名で呼びあってるんですよ。
増田:でも、イメージでいったら山さんとかゴリさんとか……。
長束:そんなのドラマだけの話ですって。
増田:現実は味気ないっていうけれど、人工甘味料がどぎつすぎて面食らうわ。
長束:酸いも甘いも噛み分けられてますから、相談があればお気軽に……
増田:酸いも甘いもって、夫婦とかじゃなくて刑事生活の話でしょ絶対。
長束:でも、智子さんなんかはどうやったら有利な条件で離婚できるかをよく相談されてますよ。それに対してあっくんは「民事不介入ですから」と……。
増田:でしょうね。なんで、奥さんも刑事相手に相談してるんだよ。
長束:そこを見るに見かねた脇坂さんの奥さんは「肘を有効に使え」とおっしゃってましたね。
増田:夫婦そろってアドバイス下手か! 離婚調停でどう肘を使えと。
   さっきの話に戻りますけど、この向かい暴力団のアジトなんですよね……。
長束:ええ、でも大丈夫ですよ。四六時中刑事さんが監視されてますから。
増田:そうはいいますけど……。
長束:すごく熱心な方たちでね。一日のスケジュールと言ったら監視・監視・監視・イチャイチャ・監視・監視・イチャイチャ・イチャイチャ・監視……
増田:イチャイチャってなんですか! え、どっちか女性なんですか!?
長束:ええ。まこちんの方は川本真琴と同じ字の真琴って書く女性の方ですよ。
増田:……で、二人はデキてる?
長束:ええ。やっぱりこういう仕事だとなかなかプライベートの時間が取れないですからね。家庭を顧みたり恋人を作ったりってことが難しいから必然的に近場で色々芽生えるみたいですよ。
増田:知りませんよ。ていうか、デキてるならデキてるにしても張り込み中にイチャついて大丈夫なんですか?
長束:仕事はちゃんとされてますから。監視・監視・イチャイチャ・監視・イチャイチャ・イチャイチャ・監視・イチャイチャ・イチャイチャ・イチャイチャ……
増田:イチャイチャの含有率! ほぼ職務放棄じゃないですか、イチャイチャなら家でやれよ!
長束:ここが二人の家ですから。
増田:そういう問題じゃなくて! ちゃんと自宅で……
長束:で、実はですね……。あっくんの方は実は妻子ある身でして……。
   それまで家庭を顧みなかったうえに恋人のまこちんは春に配属されたばかりの新人で、そんな子に手を出したもんだから奥さんが激怒して家飛び出して色々大変だったみたいですよ。
増田:ん? なんか聴き覚えのある話が……。
長束:でまあ、捜査にかこつけて二人でイチャつこうとしたら張り込み先に選んだ家になんと妻子がいるっていう偶然が!
増田:やっぱりだー! え? あっくんって堀江さん一家の……。
長束:ええ。本名は堀江綾彦さんっていいます。
増田:なんだその偶然! こんな頓珍漢もはやホームドラマですらお目にかかれないよ! てか、妻子がいるのに刑事二人はイチャついてるの!?
長束:ええ。それで、業を煮やした智子さんは毎晩離婚の相談をされているんですよ。
増田:道理で! なに刑事と民事混同してるんだと思ったら完全に民事一本だったわ!
長束:それで相談されてもあっくんは煮え切らない態度でまこちんとイチャついてばかり。智子さんもたまりかねて殴りかかっていくんですよ。
増田:当然ですよね。
長束:それを見かねた脇坂さんの奥さんが「肘を有効に使え!」と。
増田:そういうこと! ちゃんとした格闘技のアドバイスだったんだ!
長束:でも、旦那さんも刑事さんですからね。反撃されたらこれが強いんですよ。それでくじけそうになったところに脇坂さんのご主人が「ガッツだ!」
増田:精神論! 正しい! わあ、脇坂さん夫妻完全に奥さんの味方だ!
   ……ってなにこれ! なにこのホームドラマの地獄絵図! とにもかくにも宏子ちゃんの情操教育がすごい心配!
長束:宏子ちゃんはそんな大人たちを冷めだ目で見つめながら「こういう家族の形も、案外悪くないと思うよ」って言ってます。
増田:悟ってる! まずいよ、このままじゃ山田詠美の小説に出てくるティーンエイジャーみたいなスレ方しちゃう!
   宏子ちゃんを正しく導けるのは僕たち夫婦しかいない! こうしちゃいられません! さっそくそのツーバイフォー住宅に引っ越します!(舞台袖へ走って退場)
長束:(ガッツポーズ)契約成立!

 

〜採点結果〜

最高 最低 標準偏差 お気に入り 採点人数 平均
88 65 8.54
★★
5名 74.20



〜詳細〜


★=お気に入り
100  
   
   
90  
  88★(きょくにゃん)
   
80 80★(ブロッコリーとチャーシュー)
   
   
70 70(鋳☆いんがむ)
  68(FAN)
  65(BOMB)
60  
   
   
50  
   
   
40  
   
   
30  
   
   
20  
   
   
10  
   
   
0  
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