第二科学部

コント/6月4日

増田：ちょっと待て、ちょっと待て、ちょっと待てえ！
長束：どうされたんですか一体？　これじゃ歯の治療ができないですよ。
増田：なに普通にはじめようとしてるんだよ！　……その、手に持ってるものはなんだ！
長束：ダイナマイトですけど。じゃあ、口をあけてくださいね……
増田：おかしいだろ！　なんでそんなもん使ってるの！？
長束：だって、初めて治療に来たときに増田さんなんとおっしゃりましたか？
増田：痛いのが苦手だから、出来る限りすぐ終わる方法でお願いします。
長束：ほら。じゃあ、口をあけて……
増田：じゃあじゃない！
長束：これだとすぐ治療が終わるんですよ。
増田：治療以外にも大事なものが終わるから！
長束：痛いのを心配されてます？
増田：痛みですまないのを心配しています！
長束：ちゃんと麻酔はかけますから。
増田：麻酔でまぎれる次元じゃないでしょ。
長束：いいですか、増田さん。ダイナマイトに使われるニトログリセリンには血管の拡張効果があって薬として使われているんですよ。
増田：……だからなんだよ！　そうなんですか、じゃあ……とでも言うと思いましたか？
長束：誤解されているかもしれないので説明しますが、口にダイナマイトを突っ込んでもらって、導火線に火をつけるという手順で治療するんですよ。
増田：寸分違わず予想通りです。
長束：で、その爆発で虫歯を吹っ飛ばそうというわけです。
増田：虫歯だけじゃないでしょ吹っ飛ぶのは。
長束：そこはちゃんと患部にだけ効くように爆薬の量を調整しているから大丈夫ですよ。
増田：……本当ですか？
長束：ええ。だって、市販のダイナマイトを使ったと考えてくださいよ。
増田：ダイナマイトが市販されてるって前提に乗れないんですが……。
長束：そうしたら増田さんはもちろん私にまで被害が及ぶじゃないですか。そんなことすると思います？
増田：……まあ、そうですよね。
長束：ねえ、ちょっと考えればわかりますよ。私「まで」巻き込まれることをするはずないじゃないですか。私「まで」死んじゃいますからね。
増田：さっきから、私「まで」って強調するのやめてくれませんか！　こっちには被害があるみたいじゃないですか！
長束：じゃあ、口をあけてくださいね……
増田：嫌ですって！
長束：うーん。しょうがないなあ……。じゃあ（アンパンマンのお面を取り出して被る）ぼく、アンパンマン！　君の歯を治療するんだ！
増田：いやいやいや……なんです、それ？
長束：お子さんがね、歯の治療を嫌がるときにこうやってアンパンマンになりきって治療をすると喜んで受けてくれるんですよ。
増田：通用すると思いました？　私、小室世代ですよ。
長束：ここはひとつ童心に帰って！
増田：童心に帰るには死への恐怖が強すぎます。
長束：ぼく、アンパンマン！　君の歯にいるバイキンマンをやっつけさせて！
　　　……まあ、でもこの場合、アンパンに含まれる砂糖が虫歯を進行させたともいえるから、アンパンマンが正義面していいのかいつも悩むんですけどね。
増田：知らないですよ。そんなアンチヒーローな葛藤は。……でも、よくお面を被りながら治療できますね。
長束：治療するときは「アンパンマン　あたらしい顔よ！」「元気100倍　アンパンマン！」って言ってこう（お面を外す）。
増田：あ、外しちゃうんですか。
長束：ええ。子供たちはいつも人生で初であろう釈然としない顔を見せてくれます。
増田：はあ……。
長束：じゃあ、最終手段のアンパンマンも使ったことだしそろそろ……。
増田：そろそろじゃない！
長束：やっぱりアンパンマンでは心動かされませんか……。じゃあ、ここは別の作戦でいきましょう。
増田：どんな策を弄されても絶対いやですからね。
長束：今から私が言うことをイメージしてください。増田さんはピエロです。
増田：ピエロ……？　まあ、いいですよ。
長束：で、なんやかんやあります。
増田：なにがあったんですか！？
長束：説明すると長くなるんで、なんやかんやで。
増田：イメージしようがないですよ。
長束：そこは増田さんなりのなんやかんやで結構ですから。
増田：いいんですか、そんなアバウトで？　いいです。なんやかんやありました！
長束：で、絶望してください。
増田：絶望？　せっかく脳内で酒池肉林だったのに……。いいです、しました。
長束：で、顔中に青いペンキを塗りたくって顔の周りにダイナマイトを……
増田：ゴダール映画か！
長束：じゃあ、イメージできたところで口をあけてくださいね……
増田：いやいやいや……！　歯の治療関係ないし、余計嫌だわ！
長束：うーむ……。強情ですねえ。
増田：この状況で従順になれる方がどうかしてますって。
長束：ちゃんと保険も効きますから安心してくださいよ。
増田：別に金の問題じゃないんだけど……。
長束：まあ、保険といっても生命保険なんですが。
増田：もう帰る！