シャララシャカシャカ

コント/職業体験

（スイング）ええい！
 
（審判）「ストラーイク！」
 

タイム！
 

はあ……はあ……。おかしいよ。この状況絶対おかしいよ。職業体験だよね？　中学校の課外授業だよね？
 




……プロ野球選手ってどういうこと！？
 


いくらうちの中学のOBにファイターズの木田さんがいてコネがあるからっておかしいよ！
しかも、クライマックスシリーズ最終戦。9回裏2アウト満塁で中田翔の代打ってなにそれ！
体験が本気すぎるよぉ……。　
 

相手ピッチャーの田中マーくんだしさあ……。もう最悪だよ！
 





……僕、美術部なのに。
 




ああ、もうやるしかない。よし、来い！（スイング）カキーン！
 
（審判）「ファール」
 


タイム！
 
抗議します！
 
当たったんですけど！　バットに当たったんですけど！
 
中二の美術部員が目を振って適当に振っただけなのにバットに当たったんですけど！
 
おかしいですよ絶対！
 

……もう最悪だよ。
 

ていうか、木田さんももっと楽な仕事紹介してよ！
 
球団職職員で事務仕事とか、グッズ売り場でマスコット人形売るとか、明石家サンタのトナカイとか！
……あれならよかった。ニコニコして手を振ってるだけでいいんだもんな。
 



ていうか、百歩譲ってプロ野球選手だとしても、ベンチに座ってるだけでよかったでしょ！ なんでこの一世一代の山場で中田翔の代打だ！
 




（三塁ベンチを見る）うわ、中田翔すげー睨んできてるよ！　「おめえ、絶対打てよ」っていう目で睨んでる！
 

ていうか、おい、栗山―！　おいこら、この報道ステーション！
開幕前のファンの不安をよそに快進撃を続け、日本シリーズまで進出して、
「栗山って名将だったんだな」「本当に理論派だったんだね」という評価を得ながら、最後の最後でこの采配ってどういうことだこら！
 



まあいい。とりあえず2ストライクまではきた。あと一球で終わる。
……次は適当に振ったらまぐれあたりなんてことがないよう、
しっかりボールを見据えて……。
 

（のけぞる）ビュン！
 
（審判）「ボール」
 
タイム！　抗議します！
 
マーくんが本気です！　中学生相手に本気です！
 
い、いま見ましたよね！　内角外れたところ、胸元を抉るように豪速球が！
 
……スピードガン見たら160キロ出てるじゃん！　なんだよどんだけ本気……
 




……中田翔すげえ睨んできてるよー！！
「この一対一の力の勝負したかった」という目ですごい睨んできてるよ！
なんだよ160キロって……。これはあれか？　ライオンはウサギ一頭を狩るのにも全力を尽くすってあれか？
 



……僕とマーくんの実力差っていったら「ライオンとウサギ」どころじゃないよお……。「神とミジンコ」だよ！
 


沙村広明「無限の住人」第1巻102ページより引用！
 





……そしてさっきからキャッチャーの嶋がすごくささやいてくるよー！
 
「中学生？　彼女とかいるの？」ってすげえささやいてくる！　さすがノムさんの愛弟子！
 



そして客席を見たらダルビッシュがいるよー！
古巣の行方を見守りにテキサスからやってきているよー！
……でもって、ダルビッシュもすげえ睨んでくるよー！
 


あといま気づいたけれど、楽天のベンチには里田まいがいるよー！
仙一そっちのけで指示を飛ばしているよ……。
 


ハンカチ王子ー！　斎藤祐樹投手ー！　あとででいいからハンカチ貸してください！　涙拭きたいんです……。
この際カープの齊藤悠葵投手でもかまいませんからー！
……日ハム―楽天戦にいるわけねえか！
 


ソフトボールの大嶋さーん！　同じく別ジャンルから野球に飛び込んだ身としてなにかアドバイスくださーい！
……まあ、言っても僕美術部なんですけどねー“
 


ていうか、栗山ー！　おいこらこの高学歴！
なんでこの大事な場面で中学生を代打に出してるんだよ！　この無能！
……あ、監督がきた！　よかった！　これでようやく交代してもらえる！
 
……はい？　……「絶対打てよ。お前には期待しているんだからな」
……頑張ります！
 





……栗山ー！　おいこらこの白鴎大学教授！　このインテリ！　この期に及んで中学生になにを期待してるんだおーい！
 

ああ、もういい！　とにかく次で本当に最後だ。バッターボックスに立って……。無理だー！
 
さっきの豪速球がまだ生々しすぎて怖くて立てない！　あれでデッドボールになったらと思うと……。
 










……よし、こうなったら最後の手段だ。栗山英樹を殴ろう。そうすれば絶対に退場になるはずだ！
 







「はやまるな、少年よ」
 






……こ、この声は。
あ、あなたは！　野球の神ベーブ・ルース！　僕に力をくれる？
 
うおお！　力が漲ってくる！　これで勝てる！　来いやあ！
 
（スローでスイング）フォッフォッフォッ　カキンカキンカキンカキン
 
バーン！（膝に自打球が当たり倒れる）
 




ああ！
 



自打球！
 



ああ！
 



痛いー！　
 
膝がー！
 
わーれーた！
 
立てないー！
 
もう、無理だー！
 



「……諦めないで、少年」
……この声は？　ナイチン・ゲール！　僕の膝に手を当ててくれる？
うわあ！　みるみる痛みが引いていく！　ありがとう！　これでまた戦えます！
 

……でも、ベーブ・ルースの力はさっき使いきっちゃったしなあ。もう本当におしまいだよお……。
 



「……諦めんじゃねぇ、小僧！」
……この声は！　日ハムの神大沢親分！　力をくれるんですね！
親分からもらった力で絶対勝てる！　よし、来い！
 

（スローでスイング）フォッフォッフォッフォッフォッフォッフォ（そのまま空振り）フォッフォッフォッフォッフォ
（審判）「ストライーク！　バッターアウト！　ゲームセット！」
 


な、なんでだ！　大沢親分から力をもらったのに！
……あ、あれ！？（地面に膝をつく）　か……体が勝手に！（地面に手をつく）
こ、これは！　94年に日ハムがシーズン最下位だった時に最終戦でファンに見せた……土ー下ー座ー！（ゆっくり頭を下げていく）
 


ありがとうございました。