第七女子会

コント/ガチで人生が決まる面談に行ってくる



一条「えー、と……。二階くん」
 
二階(学ランを着て男装ver.)「は、はいっす」
 
一条「この時間は、何の時間かしら?」
 
二階「さ、三者面談っす……」
 
一条「そうよ、三者面談。教師と生徒とその親の3名が一同に会し、生徒の進路や諸々について話し合います」
 
二階「はいっす……」
 
一条「……5人いる!」
 
二階「先生、6人足りないっす」
 
一条「そりゃ、『11人いる!』よ! 萩尾望都さんのそういう名作SF漫画があるけど! 今、そんな話してなかったでしょ!? ていうかなんで五者面談になってんの!? え、二階くんの親はどの方なの?」
 
三田「……私が、二階森写歩朗(にかい しんじゃぶろう)の母の、二階三田子(にかい さんたこ)です」
 
一条「息子さんの不思議な名前は、親からの遺伝だったのね……」
 
三田「なにか?」
 
一条「いえ? ……じゃあ、そっちの2人は親じゃないなら、何なわけ?」
 
四谷「あたしは二階の嫁だ」
 
一条「は?」
 
二階「ち、ちがうっす! ただの恋人っすよ! ま、まだ……」
 
一条「まだ?」
 
四谷「あたしたちは、結婚を前提に付き合っている。それはつまり、嫁だと言っても過言では無いだろう?」
 
二階「か、過言っすよお……四っちゃん」
 
四谷「じゃ、じゃあ……二階は、あたしを嫁にはしたくないというのか……!?」
 
二階「そんなわけないじゃないっすか! 四っちゃんはウチの嫁っすよ! 先生、訂正するっす! この子はウチの嫁の四谷千秋さんっす!」
 
一条「そですか」
 
四谷「二階ぃ〜、コレ終わったら、一緒にカラオケ行こなあ〜♪」
 
二階「いいっすよぉ〜♪」
 
一条「なんだろう。あたしが30オーバーで独身とかだったら、衝動的に握ってたペンとか折っちゃいそうなラヴラヴ空間ね!」
 
四谷「もうすぐ付き合い始めて1年なんだ」
 
一条「知らん。心の底から、知らん」
 
四谷「そんなわけで、あたしはコイツと将来を共にすると誓いあっている。そんなあたしが二階の三者面談に参加するのは、間違ったことか?」
 
一条「間違ってはいると思うわよ!? ていうかあなた、4組の四谷さんでしょ? あなたも確かこの時間、三者面談なんじゃなかった?」
 
四谷「あたしの将来よりも二階の将来のが大事だろ!」
 
一条「なにこの献身的すぎる娘さん!? でも三者面談では迷惑なだけだわ!」
 
五島「……」
 
一条「で? 5人目のあんたは、二階くんの何なわけ? 愛人(ラマン)?」
 
五島「いえ。愛人だなんて恐れ多いです」
 
一条「だそうだから、人が殺せそうな視線を向けるのはやめてあげなさい、四谷さん。で、愛人じゃないなら、あんたは何者なの?」
 
五島「はい、使い魔です」
 
一条「……はぁ?」
 
五島「ですから、使い魔ですよ。二階さんの」
 
一条「…………黄色い救急車呼ぶ?」
 
五島「いえ、精神的な疾患は抱えていないので、お気になさらず」
 
一条「何よ、使い魔って」
 
五島「使い魔と言いますのはですね。この世界の時間軸でいうところの遥か1600年前に聖グラヌルトゥス帝が書き残したとされる古文書からその存在が証明された、レオネンターブル界のシグィリニテゥア公との盟約における、」
 
一条「15文字以上20文字以内で簡潔に説明しなさい」
 
五島「『異世界から魔術により呼び出された存在』です。18文字」
 
一条「……二階くん」
 
二階「あ、はい。ホントっすよ。1年くらい前に、おじいちゃん家の蔵にあった魔方陣に、」
 
一条「おじいちゃん家の蔵に魔方陣あんの!?」
 
二階「あっ、はい。で、その魔方陣に、たまたま知っていた使い魔召喚の呪文を唱えたら、」
 
一条「たまたま使い魔召喚の呪文知ってんの!?」
 
二階「あっ、はい。昔おじいちゃんに教えてもらってて……。そしたらこの使い魔が召喚されたから、たまたま所持していた蛙と蝙蝠(コウモリ)の死骸を生け贄として捧げたんす」
 
一条「たまたま蛙と蝙蝠の死骸を所持していたの!?」
 
二階「あっ、はい。晩御飯の買い出しの後だったっすから……」
 
一条「二階くん家の晩御飯のメニュー、蛙と蝙蝠出んの!?」
 
二階「フランス人は蛙大好きっす。ハワイとかでは普通に蝙蝠も食べるっすし、中国でも丸焼きとかスープにして食すっす」
 
一条「だからって……日本のどこで買ってくるのよ、そういうの……?」
 
五島「とにかく私は、二階さんによって召喚された、使い魔なのです。ご理解いただけましたか?」
 
一条「……その使い魔が、三者面談に顔を出す正当な理由は?」
 
五島「シグィリニテゥア公が盟約として書き記したアヴァランストューリアのクェャッパリャを、かの物理学者ンクャレァが解読したところ、」
 
一条「あんたんとこの世界の固有名詞が、舌噛みそうな名前ばっかりなことだけは分かったわ! とりあえず、5文字以上10文字以上に要約なさい」
 
五島「『主の進路に口出す権利』。10文字」
 
一条「ずいぶんしゃしゃり出てくる使い魔ね!? ええと、じゃあ……お母さんはいいとして、恋人ちゃんと使い魔さんは、出ていく気は無いわけね?」
 
四谷「ない」
 
五島「ありません」
 
一条「はぁ。……じゃあ、同席してもいいですけれど……特別ですからね?」
 
四谷「分かればいいんだよ、分かれば」
 
五島「特別というより、むしろ当たり前に決まってるじゃないですか」
 
一条「こっちが温情処置を取ってやろうって言ってんのに、コイツらは! ……じゃあまずは、二階くんの日常の学校生活について説明しますね」
 
四谷「知ってるから、いらない」
 
一条「そりゃ、同級生で恋人のアンタは知ってるでしょうけど! こっちは基本的にお母さんに対するプランを用意してんだから、せめてそれに従いなさい!」
 
四谷「あっ、でもさすがに授業の様子は知らないから、できればそこは教えてほしい!」
 
一条「はいはい。 で、お母さん。二階くんの日常生活なんですけど」
 
三田「はい。家ではおとなしいのに、実は学校では手のつけられないような不良だったのだと言われても、心臓麻痺を起こさないよう気をつけます」
 
一条「もしそうだったらそこまでのショックなんですか!? 大丈夫です、学校でも二階くんはおとなしくていい生徒ですよ! 授業中もしっかりと教師の話を聞いているため、成績も良好ですし!」
 
三田「よ、良かった……!」
 
一条「うわよく見たらすごい脂汗!? もう少し家の中での二階くんを信じてあげてくださいよ! ちなみに家での二階くんはどんな感じなんですか?」
 
三田「ちょっと内弁慶かなとも思いますが、基本的には良い子です」
 
一条「ふふ、そうなんですか。じゃあその……いよいよ進路の話になるんですけれど。お母さん的には、どのように考えられていらっしゃいますか?」
 
三田「はい。少なくとも東京大学には行かせようかとは考えております」
 
一条「跳べるハードルの高さ考えてくださいよ! “少なくとも”って、それ以上の選択肢、もう海外にしかありませんよ!?」
 
三田「すいません、間違えました。東京の大学に行ってもらいたいと」
 
四谷「反対反対! 絶対反対!」
 
五島「私もそれに関しては異を唱えます」
 
一条「あんたたちは黙っててよ、マジで……」
 
四谷「二階くんは高校を卒業したら、あたしと結婚するんだ! だからもう学校なんか行かなくてもいい! あたしと二人暮らしをするために就職するんだ!」
 
一条「思い切ってるわねあなた!? 見聞の狭い学生の恋愛でそこまで未来を決めてしまうのは危険よ!?」
 
四谷「だからどうした!? 二階はあたしと結婚して就職して、何やかんやあって最終的にIT企業の社長になるんだよ!」
 
一条「恋は盲目とは言うけど、盲目すぎないかしら!? さすがに夢見すぎでしょ! その“何やかんや”は絶対に省いちゃ駄目な過程でしょ!」
 
四谷「愛はあたしと二階を救う!」
 
一条「勝手に愛の恩恵を二人占めするな! 愛が救うのは世界よ!」
 
五島「まったく。主様の恋人は随分と夢見がちな方のようですね。まるで漫画のような未来を思い描いていらっしゃるご様子で」
 
一条「『使い魔』なんて漫画みたいな存在のやつにだけは言われたくないでしょうけどね!」
 
五島「ところで主様の進路に関して、私の言い分も聞いていただけますか?」
 
一条「拒否してもどうせ喋るんだろうけど、形式上言っておくわ。『断わる』」
 
五島「私は二階さんに、私の世界を救っていただくことを条件に、使い魔として仕えています」
 
一条「ほらやっぱりだ! あたしに拒否権は最初から無いんだ!」
 
五島「私の世界では、」
 
一条「先手を打つわ。『5文字以内で説明しなさい』」
 
五島「『世界ヤバい』。5文字」
 
一条「なるほど。まったく分からないわ」
 
五島「5文字で説明させるからですよ!」
 
一条「……要するに、あんたんとこの世界がヤバい状況にあるから、たまたま自分が召喚されたのをいいことに、自身が仕える代償として二階くんに助けてもらいたいと?」
 
五島「WAO、なんという推察能力」
 
一条「ていうか一条くん、ごく普通の高校生よ? 言っちゃ悪いかもだけど、なんなら体育の成績が悪いタイプの……。そんな子で、世界なんて救えるの?」
 
五島「あ、大丈夫ですよ。ちゃんと『世界の救世主育成プログラム』に沿って学んでいけば、誰にでも世界は救える仕様になってます」
 
一条「何そのお手軽感!? 育成プログラムまで用意されてんの!? しかも誰にでも救える仕様なんだったら、別に二階くんじゃなくてもいいじゃない! それこそあなたとかでも!」
 
五島「(声を潜めて)異世界から来た救世主の方が、盛り上がるんですよ」
 
一条「そんな大人の事情みたいなの知らないし! ……ていうか二階くん、さっきっから喋ってないけど、大丈夫?」
 
二階「……え? あ、はい。すいませんっす。ちょっとボーッとしちゃって……」
 
三田「大丈夫? 森写歩朗」
 
二階「あ? 大丈夫だよババア」
 
一条「二階くん、親に対してはすごい強気ね!? 確かにお母さんの言うように、内弁慶だわ!」
 
四谷「ワイルドな二階……。やだ、かっこいい……」
 
一条「ワイルドっていうか、単に態度悪いだけよ! もう四谷さん的には、何しても肯定的に受け取られちゃうのね! ていうか二階くん、ホントに大丈夫?」
 
二階「は、はいっす……。ちょっと最近はよくなるんすけど、たぶん寝不足っすよ……。大丈夫っす」
 
一条「そう? じゃあ、進路の話に戻るけど……二階くん自身は、どうしたいの?」
 
二階「僕、自身……?」
 
一条「進学か。就職か。まぁ、あと留学?」
 
五島「異世界を救うという一大ミッションを、“留学”で片付けないでくださいよ!」
 
一条「あるいは他の道もあるしね。何にしても決めるのはあなたよ。本人の軸がぶれていたら、どの道を選んでも失敗するわよ。逆に言うと、本人の軸がしっかりしていれば、すべての道が成功に繋がっているのだけれど」
 
二階「……先生。僕は、やりたいことがあるっす」
 
一条「うん。聞かせて」
 
二階「僕は、美大に行きたいっす」
 
三田「え?」
 
四谷「え?」
 
五島「ゑ?」
 
二階「僕、本格的に芸術を学んでみたいと思うんす……!」
 
一条「……うん。あたしはいいと思うわ。二階くんがやりたいと思うなら、二階くんにとってはそれが正解よ。……お母さんたちは、どう思われますか?」
 
三田「わ、私は……息子が決めたことなら、逆らえませんから……(ビクビク)」
 
一条「二階くん、家では別人レベルで内弁慶っぽい!? 大丈夫ですか!? ドメスティックなバイオレンスには発展してませんよね!?」
 
四谷「あたしも……二階が決めたのなら、それを認めるよ」
 
一条「四谷さん……」
 
四谷「へへへ、東洋のピカソの妻かあ」
 
一条「あなたの想う未来の二階くんは、必ず大成功を納めているのね! ポジティブでいいけど!」
 
五島「まあ、私も認めるしかないですね……。私の世界を救って頂くのは、今度の夏休みにでも数週間ほどかけてやっていただきましょうかね……」
 
一条「そんな夏休みに免許取る感覚で世界救えんの!? まあ、でも、よかったわね二階くん。みんな認めてくれて」
 
二階「うんっす!」
 
一条「じゃ、三者……まぁ、イレギュラーで五者面談になっちゃったわけだけど……は、これで終了です」
 
三田「ありがとうございました」
 
四谷「よし二階、カラオケ行こうぜえ〜♪」
 
二階「うんっすぅ〜♪」
 
一条「あら、ウザいラビュラビュ空間ね♪ あ、使い魔だけはちょっと残ってくれる?」
 
五島「はい? 私ですか?」
 
一条「うん。ちょっとだけ、ね」
 
(二階、三田、四谷、退室)
 
五島「で、なんでしょう? 私、コレでもお金を稼ぐのに忙しいんですよ。パチンコとか競馬とか競艇とかで」
 
一条「あぁ、そう」
 
五島「せめてちゃんとツッコミ入れてくださいよ! 寂しい!」
 
一条「ツッコミ入れられて仕方ないことだとは思ってるのね……」
 
五島「……あの。さっきから、窓やドアの鍵を閉めたりして、どうしたんですか? ま、まさか私、襲われます!?」
 
一条「誰が襲うか! ってツッコミしたいところなんだけど……、実はあながち間違いでも無かったりするのよね、淫魔さん」
 
五島「……なんのことです? 私は……」
 
一条「あら、サキュバスさんって言った方がよかったかしら?」
 
五島「……!?」
 
一条「異世界だなんだとご託を並べてはいたけど、あんなのただの口からデマカセでしょう? あなたの正体は、下級悪魔のサキュバス。精神操作の魔術でも使って、主人である二階くんと、その理想の女性だった四谷さんをくっつけたんでしょう? あなたが召喚されたのも、あの2人が付き合い始めたのも、同じ1年前。時期は合うわ。 そして見返りに二階くんから精力を吸い取っていた……とか、そんなところでしょ。二階くんの体調が近頃悪そうだったのはそのせいね。さすがに微量とはいえ、1年近くもエナジードレインされ続ければ、そりゃあ体調も悪くなるわ。……で、まぁ。あたしの可愛い教え子に憑くのはやめて頂戴。目障りだわ」
 
五島「く……せっかく見つけた餌場! こんなところで退治されてたまりますか!」
 
一条「……フ。気軽にミッション系の学校に立ち入ったことを後悔することね! ミッション系の学校には悪魔祓いの専門家がゴロゴロいたりするのは常識よ!? 悪霊退散(ロザリオを掲げる)!」
 
五島「ど、どこの世界の常識なんですかあああああ!!!!? ぐあああぁぁぁ……」
 
(暗転)
 
一条「さて。……これは完全に後日談になるわけだけど。サキュバスによってかけられた精神操作が解けた四谷さんは、あっさり二階くんをフッちゃったらしいわ。悪魔の力を借りての幸せなんて、しょせんかりそめのものでしかなかったのね。儚いものだわ。……けれどね、サキュバスの力なんかに頼らずに諦めず何度もアタックした二階くんと、その根気に負けた四谷さんが、再び交際することになる未来は……そう遠い日のことじゃあ、なかったわ」
 


四谷「二階ぃ〜♪ 今度、あたしがヌードモデルになってやるよぉ〜♪」(二階にくっつきながら)
 
二階「ありがとうっす、綺麗に描くっすよ四っちゃ〜ん♪」(四谷にくっつきながら)
 
一条「……サキュバスがいた頃よりも、ウザい度がますます上がってるぅぅぅ!」


 

〜採点結果〜

最高 最低 標準偏差 お気に入り 採点人数 平均
86 33 14.96
★★★
10名 59.80



〜詳細〜


★=お気に入り
100  
   
   
90  
  86★(ザブマリン)
   
80  
  79★(旅人)
   
70  
  69(kenzip)
  64★(ステーヴンV世)
60 60(哲夫)
  59(FAN)
  54(ジンガー)
50  
  47(井島)・47(きょくにゃん)
   
40  
   
  33(ゆ)
30  
   
   
20  
   
   
10  
   
   
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