2.卒業証書



 



(教頭:卒業証書授与。3年D組、七島ナオ!)

ナオ:はい!





ゴウ:…卒業証書。七島ナオ殿。
   右の者は、本校の全過程を修了したことを証する。
   平成24年3月19日、校長、引尾ゴウ。……おめでとう。

ナオ:ありがとうございます!
   …よし、これで無事卒業、高校生活も今日終わり…………あれ?

ゴウ:どうしたのかね?

ナオ:いや……この卒業証書、白紙なんですけど……

ゴウ:……白紙だね。

ナオ:たぶんこれ間違いだと思うんで、正しい卒業証書を……

ゴウ:…ふ、ふふふ。あーっはっはっは!!

ナオ:……校長!?え、どうしたんですか急に!?

ゴウ:そう君の卒業証書は白紙さ。つまり君は……卒業、出来ないんだ。

ナオ:……卒業出来ない!?え、どういうことですか!?

ゴウ:白紙の卒業証書は、卒業出来ないという証だ。
   君には卒業出来ない相応の理由があるんだよ……思い当たる節はないかね?

ナオ:いや、そんな……だって、遅刻も欠席もしてないし、成績もそこそこ取ってたし……

ゴウ:分からないようだな…………じゃあ教えてあげよう。君が卒業出来ない理由は……







   運が悪かったからだ!!

ナオ:……は?

ゴウ:この卒業証書の束の中には、白紙の卒業証書が混じっていた。

ナオ:いやちょっと待って。

ゴウ:君はそれを偶然引いてしまった……運が悪かったからだ!!

ナオ:ホントに運なのかよ!?……いやちょっと待って、え!?どういうシステム!?

ゴウ:…我が校の伝統として、卒業証書に白紙を混ぜておいて、白紙を引き当ててしまった者は卒業できないというしきたりがあるんだ。
   ここぞというときに運が悪いと、社会人になってからも運が悪くて失敗するからな。たぶん。

ナオ:滅茶苦茶すぎるだろ!!ダメだったときの代償が大きすぎるって!!

ゴウ:ちなみに、白紙は1枚しか入っていない。

ナオ:すげえ確率だな!?いやこれ、むしろ運いいんじゃね!?

ゴウ:なので次の人は君の卒業証書をもらい、以降一人ズレで他人の卒業証書をもらうことになる。

ナオ:そこは俺のを抜いて対応しろよ!!他人の卒業証書とかいらねえだろ!!

ゴウ:…というわけで、君にはもう一度高校生をやり直してもらう。

ナオ:いや待ってくださいよ!!こんな運だけで3年間を棒に振るとか……納得いかないですよ!!

ゴウ:…………まあそう言ってもな。私も鬼じゃあない。

ナオ:…本当ですか?

ゴウ:ああ。ここに筆とすずりがある。その白紙の卒業証書、貸してみなさい。

ナオ:は、はい!

ゴウ:(かきかき)そうは言ってもな、このしきたりも社会に出る前の経験として設けているだけだからな……

ナオ:ああよかった…

ゴウ:…ほら、出来たぞ。







   「は ず れ」だ。

ナオ:ふざけんなよ!!ふざけんなよ!!

ゴウ:はーっはっはっは!!甘いな!!そう簡単に卒業させるか!!

ナオ:くそう!!弄ばれた!!無駄に達筆なのが腹立つ!!

ゴウ:そう!校長はそれが見たいんだよ!!絶望と怒りに溢れたその表情がね!!

ナオ:…常人の感覚じゃねえ!!

ゴウ:はは、毎年これが見たいがために卒業式をやっていると言っても過言ではない!!
   それを証拠に、前の日は全然眠れない。

ナオ:遠足前の小学生かよ!!

ゴウ:白紙を貰った生徒のあのなんとも言えない表情!!ワクワクするに決まっているだろう!!
   だから卒業式が始まってからもそのドキドキ感を長く味わうため、敢えて白紙は最後の方に入れている。

ナオ:D組までしかないからD組不利じゃないか!!チクショウ!!

ゴウ:加えて感情の落差を出すため、D組の担任は毎年、生徒に対して厳しくも優しい高山先生にしている!!

ナオ:確かにめっちゃいい先生だった!!団結力のある良いクラスになってた!!…くそう、自分の快楽のために高山先生を利用するなんて!!

ゴウ:ふふふ…残念ですねぇ〜!内申点も高かったのにねぇ〜!

ナオ:なんなんだよー!!くそう、大学だってちゃんと受かったのに!これで成実ともまだ一緒にいられると思ったのに……

ゴウ:お?…成実さんというのは、君の彼女さんですか?

ナオ:え、まあそうですけど……

ゴウ:……いいこと聞いちゃいましたー!!

ナオ:しまった!!新たな餌を与えてしまった!!

ゴウ:なるほど、彼女さんですかぁ〜!!君は高校生やり直し、彼女は大学生…………離れ離れですねぇ!!

ナオ:うるせえ!!キラキラした目をするな!!

ゴウ:君がすでに覚えている世界史の授業を受けている間に、彼女さんはまだ知らない世界で新たな男を……

ナオ:やめろおおおおおお!!…くそう、全部校長の思うツボなのかよ……

ゴウ:…そういうことだ。君にはもう一度、高校生をやり直してもらう。

ナオ:そんな……運が悪くて高校生やり直しだなんて、親が聞いたらなんて……

ゴウ:安心するがいい。君の両親には100万円あげた。

ナオ:買収されてる!!

ゴウ:もう君には逃げ道はない。さあ、もう一度高校生をやり直すのだ〜!!







(三年後)

ナオ:やっとまた卒業式までこぎ着けた……おんなじことを繰り返すのがこんなに暇だと思わなかった……結局成実にもフラれたし……
   ……あと二十歳過ぎたのに高校生だからエロ本買えないの地味に辛い。

(教頭:卒業証書授与。3年D組、七島ナオ!)

ナオ:呼ばれた。はい!





ゴウ:卒業証書。七島ナオ殿。
   右の者は、本校の全過程を修了したことを証する。
   平成27年3月17日、校長、引尾ゴウ。……おめでとう。

ナオ:ありがとうござ…ああああああああああ!!

ゴウ:(にやり)

ナオ:…白紙ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!

ゴウ:はい残念ーもう一回高校生やり直してくださーい。

ナオ:いやもう三年は!もう三年はさすがに!!

ゴウ:そういうしきたりなので、仕方ないでしょう。

ナオ:何百分の一を二連続で引き当てるとか!!もはや奇跡だろこんなん!!

ゴウ:はっはははは!!いいねぇその表情!!さすが二連続は違うねぇ〜!!

ナオ:あああああうるせえ!!

ゴウ:さすがだねえ!!濃い表情してるねぇ〜!!(パシャパシャ)

ナオ:写真を撮るな!!あと濃い表情って何だよ!!

ゴウ:いやぁいい表情が撮れましたぁ〜、卒業文集に載せてあげましょうかねぇ〜!!
   卒 業 出 来 な い け ど ね ぇ !!

ナオ:やめろおおおおおお!!思い出のスナップ写真の中にこれが紛れるのは嫌だああああああ!!

ゴウ:はいはい白紙貸してー。「は ず れ」って書くから。

ナオ:チクショー!自分の立場を思い知らされるー!!

ゴウ:両親にもまた100万あげるからね。

ナオ:お金だけは増えていく!!

ゴウ:じゃ、また三年間高校生活頑張ってねぇ〜!!







(さらに三年後)

ナオ:やっと三年経った……どんどん時間の流れが遅く感じるようになってる……
   あと女子高生エロいな!!エロい!!女子高生というブランドを客観的に見れる歳になってしまったからな……

(教頭:卒業証書授与。3年D組、七島ナオ!)

ナオ:よし……はい!





ゴウ:「は ず れ」。

ナオ:早いよおおおおおおおおお!!今までちゃんと読んでからだったじゃん!!

ゴウ:「は   ず   れ」。

ナオ:わかったよ!!…というか今更だけど、今までずっと何も書いてないのに卒業証書の文章読んでたのかよ!

ゴウ:おめでとう。

ナオ:おめでたくねえよ!!なんにも!!おめでたくねえよ!!

ゴウ:あれ〜この表情も見慣れてきましたねぇ〜!!もっと引き出しないんですかぁ?

ナオ:ねえよ!!お前のためにやってるんじゃねえんだよ!!

ゴウ:はいじゃあ「は ず れ」って書くから紙貸して。

ナオ:先に言っといてやっぱ書いてねえのかよ!!というか一回渡してわざわざ戻して「は ず れ」って書くシステムなんなんだよ!!

ゴウ:はいじゃあ両親にもお金あげるからね。三連続達成ボーナスで300万。

ナオ:ボーナスとかあんのかよ!!

ゴウ:じゃあ三年後〜 You'll be back!!

ナオ:うるせえ!!







(さらに三年後)

ナオ:“大人の余裕”とか言われて女子高生からめっちゃモテた。四又とかしちゃった。
   なんだこれ。27になってからの突然のモテ期なんなん。そしてやっぱり女子高生エロい。

(教頭:卒業証書授与。)

ナオ:おっ来た……

(教頭:……ですが、今年はインクや墨汁が7万倍に値上がりした影響で卒業証書が作れなかったのでみんな白紙です)

ゴウ:そういうわけで全員高校生やり直しでーす。

ナオ:…えええええええ!?なにそれ!?

ゴウ:だって卒業証書白紙だから。白紙ならやり直しだよね〜。

ナオ:なぜそこまでして「白紙=高校生やり直し」にこだわる!!全員卒業できないとか!!そこはなんか対処しろよ!?

ゴウ:いやー、みんな運が悪かったね。

ナオ:もう運とかいう問題じゃないし!…というか日本経済のせいだ!!なんだよ7万倍の値上げって!!

ゴウ:はーっはっはっはは!!いやぁいいねぇ〜、皆がみんな絶望の表情!!壮観ですねぇ!!
   あ、でもこんだけいると一人一人は薄いかなぁ〜?

ナオ:なんなんだよもう!!絶望の表情を濃い薄いで判定するな!!

ゴウ:そういうわけで今から「は ず れ」って書くから、また紙こっちに戻してねー。

ナオ:やっぱ今から書くのかよ!!めんどくせえな!!…というか墨汁値上がりしてたんじゃなかったの!?

ゴウ:はいじゃあ全員の両親に100万ずつ。

ナオ:この学校の財政どうなってんだよ!!

ゴウ:そして君はこれで合計600万円獲得だね。

ナオ:獲得とか言うなよ!
   …というかもうウチお金いらねえよー!!お母さん金もらうごとにめっちゃ高い骨董品買いやがるんだよー!!
   せめて学費に充てろよ!!家で見かけるたび悪夢を思い出しちゃうだろうがよー!!

ゴウ:じゃあねー。ちなみに君の最初の同級生だったみんなはだいぶ稼ぎ出してるよぉ。

ナオ:あー知りたくなかった!!







(さらに三年後)

ゴウ:「は ず れ」。

ナオ:くそおおおおおお!!







(さらに三年後)

ゴウ:「は ず れ」。

ナオ:ちくしょおおおおおお!!







(さらに三年後)

ゴウ:「は ず れ」。

ナオ:ちくしょおおおおおおおおおお!!…というか校長の任期長すぎだろ。







(さらに三年後)

インフルエンザのため卒業式欠席(欠席により自動的に高校生やり直し)







(さらに三年後)

ゴウ:「は ず れ」。

ナオ:元いた場所に戻ってきたという感覚!!







(さらに三年後)

ゴウ:「は ず れ」。

ナオ:やったあああああああ!!







(さらに三年後)

ゴウ:「は ず れ」。

ナオ:やったあああああああ!!







(さらに三年後)

ゴウ:「は ず れ」。

ナオ:やったああああああああああああ!!













(最初の卒業式から300年後)

ナオ:ふう……またしても最高のコンディションで卒業式を迎えられたな……
   不老不死の薬を手に入れて飲んだかいがあった……

ゴウ:ふぉっふぉっふぉ。やはり来たな。

ナオ:校長!!

ゴウ:ワシもこの時を迎えられて嬉しいぞ。3日おきに不老不死の薬を飲んだかいがあった……

ナオ:一回飲めば効くやつですけどねそれ。

ゴウ:…しかし七島くん。君に残念なお知らせがある。

ナオ:えっ……何ですか?

ゴウ:君も知っての通り、我が校にもついに少子化の波が来た。

ナオ:めっちゃ波遅いですね。200年経ってますけど。

ゴウ:そのせいで、今年の卒業生は君一人だ。

ナオ:確かにそうです。

ゴウ:つまり卒業証書は1枚。そして今まで、白紙はドキドキ感を味わうため、最後の方に入れてきた。

ナオ:……と、いうことは……。

ゴウ:そうだ。1枚目は君の正しい卒業証書だ。つまり、君は…………これで卒業だ。

ナオ:…卒業、ですか!?

ゴウ:ああ。
   …卒業証書。七島ナオ殿。
   右の者は、本校の全過程を修了したことを証する。
   死にたい13年3月20日、校長、引尾ゴウ。

ナオ:年号どうなっちゃったんだよ。

ゴウ:…おめでとう。ついに卒業だな。

ナオ:ありがとうございます……長かったようで、長い高校生活でした。

ゴウ:お疲れ様。今日は、家に帰ってゆっくり休むがいい。

ナオ:あ、いや、家は骨董品で溢れかえってて入れないので庭で寝ます。

ゴウ:そうか。

ナオ:じゃあ帰ります。……しかしいやあ、218歳にしてやっと卒業かー!嬉しいな!
   これだけ我慢したかいg……ウッ!!(バタリ)







ナオは心臓発作で死んだ。

不老不死の薬を飲んだはずでは…とお思いの方も多いだろう。

しかし彼の手に入れた不老不死の薬、その瓶に入っていた説明書にはこう書かれていたのに彼は気付かなかった。







「は ず れ」と。

















(ちなみに218歳までは素で生き延びた)

 


next is ...

<娘さんをください>





 

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